漫画「弁護士のくず」

「弁護士」と言われてイメージするのはどんなことでしょうか。正義の味方でお金持ちで頭がいい。そんなイメージが私の中にはあります。弁護士とは、一般に、依頼を受けて法律事務を処理することを職務とする専門職のことを言います。日本では民事訴訟で、原告・被告などの訴訟代理人として主張や立証活動などを行うほか、破産や民事再生、会社更生法の申請などの法的倒産処理手続きやこれに関連する管理表夢などの法律事務を行い、関連する法律相談も行います。また、刑事訴訟では、弁護人として被告人の無罪を主張し、あるいは適切な量刑が得られるように、検察官と争うというのも弁護士の仕事です。こんな風に文字にしただけでも何やら難しそうで、大変そうですよね。実際に弁護士さんに関わることはあまりないとは思いますが、弁護士さんがどのような仕事を受け、どのようにそれをこなしているのかというのは気になる所です。そこで今回は、普段関わることのない弁護士さんの仕事を漫画やドラマや映画を通じて見てみたいと思います。

弁護士のくず

「弁護士のくず」は、ビッグコミックオリジナルにて2003年から2014年まで連載された漫画です。作者は井浦秀夫、法律監修は実際に弁護士として活躍している小林茂和が担当しています。この漫画は、型破りでむちゃくちゃな言動から「人間のくず」とまで呼ばれる弁護士・九頭元人(くずもとひと)が、舞い込んでくる様々な依頼を引き受ける課程で、弁護士とは思えないような方法で依頼を解決する様や、依頼の裏に潜む人間模様を描いたブラック・コメディ漫画です。単行本は小学館から2014年5月までに通巻で19巻が刊行されています。平成18年には第52回小学館漫画賞一般向け部門を受賞するなど、高い評価を受けた漫画で、2006年にはTVドラマ化もされました。

登場人物

主人公・九頭 元人(くず もとひと)

高校中退後、女性のヒモとなり、後になぜか弁護士になれた男。その言動は建前無しの本音100%で貫かれており、時には自らヤミ金対策を教えておきながら報酬を得るためにヤミ金と同じ手口を使ったり、弁護を担当した言動に問題のある被告人を、公判後の記者会見の場で怒りに任せて殴ったり、事件が解決した後に屁理屈をこねたり、所長である白石のいないところでは悪口を言っておきながら、白石の前ではわざとらしく必要以上に胡麻をすったりと、その言動はしばしば周囲の顰蹙を買っています。依頼案件や裁判を有利に導くために、脅しや騙しと言った弁護士らしからぬ非合法すれすれのテクニックを駆使したり、場合によっては利益相反、守秘義務違反など、弁護士としての倫理違反を犯すなど、手段を選ばないこともあります。しかし一方で、複雑な背景を持つ事件の本質や、他人の隠している本音を見抜く洞察力に優れており、その言動のお陰で立ち直った物も多く、たまにはちゃんとしたことも言います。事務所の方針でよく引き受けている少年事件は「全然儲からない」「ガキは大っ嫌いだ、純粋で」という理由で好きではないのですが、非行少女を殴りつけて更生させるなど熱い面も持ち合わせています。また適用法令等に関する判断は非常に妥当で、多くの無罪判決を勝ち取っており、弁護士としては一流の腕を持っています。「美月」という名前の一人娘がいる、シングルファザーでもあります。彼女には「(死んだ)お母さんは、いつもお前を褒めている」と言葉をかける優しい一面を持っています。時には暴走しかけた武田に対し、弁護士としての責務を厳しい口調で真剣に説くこともあります。即興の噂話を作るのが得意で、わがままな依頼人をそれで説得したりもしますが、大抵は意味もなく持ち出して、相手を煙に巻くのに使われます。短髪で丸顔、瞳だけ描かれた小さな目、赤い頬、M字型をした口などの容貌は「ビートたけし」に似ており、他の登場人物とは若干違った特徴的な描かれ方をしています。これについて作者は、「九頭の顔を敢えてペルソナ(仮面)的にしてあるのは、そうしないと恥ずかしいセリフを言わせることが出来ないから」と述べています。第8話までは左眉や鼻頭に絆創膏を貼っていました。一時期はテレビドラマ「リーガルハイ」の主人公・古美門研介に扮したこともありました。

武田 真実(たけだ まみ)

人権派弁護士・白石誠に憧れて彼の事務所に入所した女性弁護士です。常識的で正義感も強いですが、人を疑うということを知らず、依頼人の嘘や隠し事に騙されることも多く、事の是非を一方的に決めつけるなど、独善的なところもあります。九頭とコンビを組むことが多く、彼の非常識な言動に振り回されており、時にはきつい言葉で九頭を罵倒することもあり、九頭をグーで殴ることさえあります。九頭の弁護士としての実力は認めていますが、直後にとんでもない発言をすることなどは快く思ってはいません。そのためか九頭に「先生」をつけず、そのまま「クズさん」と呼んでいます。幽霊が苦手で、暗い場所や幽霊話をされたりすると過度に怯えたり、泣き出してしまうこともあります。

白石 誠(しらいし まこと)

九頭が所属する白石誠法律事務所の所長です。少年事件付添活動に熱心な人権派弁護士として知られ、テレビのコメンテーターとして登場することも少なくありません。しかし実際には、依頼人が持ってきたアダルトDVDをこっそり見たり、九頭が記者会見に酔って現れたり、あるいは自分が息子とケンカする姿を見られたりするたびに「メンツ丸つぶれ・・・」と言いながら泣き出したりする、小市民的な人物です。悪口を言われたり間違って物をぶつけられたりすると、怒りの表情を露わにする短気な一面もあります。

加藤 公平(かとう こうへい)

九頭と同じ法律事務所に所属する男性弁護士です。武田同様、九頭の非常識な言動に悩まされています。非常にまじめで堅物な妻帯者ですが、一度だけ女性の依頼人に誘惑されたと勘違いして誘いに乗りかけたことがあります。また、痴漢冤罪事件の被告になったこともあります。

白石 寿仁也(しらいし じゅにや)

白石誠の息子です。27歳の時に意図せずして「釣り銭詐欺事件」を起こして以来、みんなに馬鹿にされていると思い込んで人付き合いがうまくできなくなりました。初登場時は派手な服にサングラス、金髪といったヤンキーのような服装をしており、以前は白石誠法律事務所の中に自分の事務所を作っていました。父親と同様小市民的な人物で、すぐ調子に乗っては、結局失敗して落ち込むことが多いです。

軒下 歩夢(のきした あゆむ)

連載100回記念で登場した32歳の新人女性弁護士です。以前はOLをしていたのですが、弁護士を志して700万円借金し法科大学院に入って四方試験に合格し弁護士になったものの、弁護士過剰の就職難によって88ヶ所の事務所から就職を断られていました。白石法律事務所でも断られたはずだったのですが、人手不足を補うために基本給無しのノキ弁(事務所内独立採算弁護士のこと)として入所しました。よく言えば素直な性格で、上から目線ではなく依頼人と対等の立場で接することが出来ます。しかし、調子に乗りやすく経験も不足しているため失敗も多いです。

九頭 美月(くず みずき)

九頭がかつてヒモをしていた時に付き合っていた女性・秋野葉月(あきのはづき)の娘です。小学生で、シングルマザーだった葉月が交通事故で亡くなり、葉月の兄夫婦に引き取られたのですが、そこで冷遇され虐待を受けていたため、九頭を頼って家出しました。実際に九頭と血縁があるかどうかは今も不明で、九頭も美月に会った直後は全く認知する気はありませんでした。しかし、美月の周りにいる人間の全く思いやりがなく身勝手な言動に激怒した九頭が勢い余って認知してしまい娘として同居することになります。生前の母からは九頭の写真を見せられて「父親は正義の弁護士でヤクザと戦って死んだ」と語り聞かされていました。しかし、現実の九頭の言動にはかなり頭を痛めています。いわゆる文化系で、よく九頭に古典や神話、偉人の名言などの話を持ち掛けてきますが、ほとんどバカ話かエロ話にされてしまいます。幽霊が苦手なようで、おばけや生霊の登場する小説を読んでは怖がっています。同居後しばらくは母親の姓である「秋野」を名乗っていましたが、後に「九頭」に改姓しました。

小俣 夕花(おまた ゆうか)

白石誠法律事務所の事務員です。おとなしい性格ですが、依頼人の小説家にナンパされ、そのまま付き合っていたことがあります。その後、女性弁護士との三角関係が発覚して別れました。浮林亜衣(ふりんあい)という従姉妹がいます。武田と仲が良く、武田のことを「マミ先生」と呼んでよく一緒に食事をしています。

国光 裕次郎(くにみつ ゆうじろう)

九頭の友人の古書店店主です。当初はTVドラマ版のオリジナルキャラクターだったのですが、逆輸入の形で登場するようになりました。設定はTVドラマ版と同じで、人物のモデルもTVドラマ版で国光を演じていたモト冬樹となっています。

氷谷 令(ひたに れい)

地方検察庁検事です。被告人に対して一切容赦のない鬼検事で、九頭とは裁判で2度渡り合い、共に九頭の想定より重い判決が下されています。

著作権問題と「盗作の深層」

2008年2月13日、弁護士の内田雅敏が「1月5日号から連載された3話のストーリーが、自著の『乗っ取り弁護士』に酷似しており、著作権を侵害している」と主張して、『ビッグコミックオリジナル』発行元の小学館と作者の井浦に対し、第4話の雑誌掲載と単行本収録中止を求める仮処分申請を東京地方裁判所に申し立てました。しかし、東京地裁が最終話掲載誌の発売までに結論を出さなかったため、全話が予定通り掲載されました。そのため、同年3月3日に内田側は仮処分申し立てを取り下げ、正式に提訴しました。井浦と小学館側は、東京地裁で開かれた第1回口頭弁論で「両作品の類似点は実在の事件のものであり、似ていても著作権侵害にはなり得ない」として、全面的に争う姿勢を見せ、2009年12月24日、「まんがの表現は内田氏の著書と似通った表現が使われている部分があるが、実在の事実を選択して記述しており、内田氏の創作的表現を用いたわけではない」として、内田の請求を棄却する判決が出されました。内田はこの判決を不服として控訴しましたが、知的財産高騰裁判所は2010年6月29日に東京地裁の一審判決を支持し、控訴棄却しました。さらに、最高裁判所第一小法廷は、内田の上告申立を受理しなかったため、同年11月18日に地裁判決が確定しました。

「盗作の深層」

この判決を受けて、作者の井浦は2011年4月に「盗作の深層」というストーリーを連載し始めました。このストーリーは、実際の事件を参考にして書いた漫画が、同じ事件を追ったドキュメンタリー映像に酷似しているとして、著作権侵害として訴えられるという内容になっています。作者自身が体験し完全勝利した「著作権問題」を、訴えられた作者の心情や裁判の本質を丁寧に描いていて、「著作権」が何を守るものなのか、という曖昧な定義に関しても非常に分かりやすく書かれています。経験に裏打ちされたリアルな裁判の様子は興味深く、作者と編集者の自信に満ち溢れたストーリー展開は必見です。

オススメポイント

「弁護士のくず」は、弁護士物に多い「弱きを助け強きを挫く」といった勧善懲悪のお話ではなく、どちらかと言えばダメ人間に当たる主人公が、裁判にも依頼人にも本音でぶつかっていくという少し変わったスタイルの物語になっています。一見滅茶苦茶に見える九頭の行動が実はけっこう本質を付いていて、読者の気持ちをそのまま言葉にしてくれているようで、どこかすっきりするのがこの作品の良い所です。裁判は勝つことだけが大切なのではなく、それによってその問題の根本も解決しなければ依頼人は幸せにはなれないのだということをこの漫画から学びました。九頭の「くず」と呼ばれる所以である突飛で下卑た行動も、必ずと言っていいほど事件解決の伏線に繋がっており、計算され尽くしたストーリーには感服します。現実にこんな弁護士がいたらきっと大問題になるのでしょうが、こういう人が一人くらいいてもいいのにと思わせてくれるような力強さが九頭にはあります。ストーリーは一話完結で非常に読みやすく、一話の中に人間ドラマがぎゅっと詰まっていて読み応えがあります。とっても面白いので是非一度読んでみてください。

弁護士になろう!